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東京高等裁判所 昭和30年(ラ)264号 決定

抗告人 東交通株式会社

主文

本件抗告を却下する。

理由

抗告人は、原決定を取り消すとの裁判を求め、その理由として別紙抗告理由書のとおり主張した。

よつて案ずるに、本件記録によれば、本件自動車の監守保存処分は、仮差押の執行に関して債権者たる中山庄二郎の申立により、原裁判所が執行裁判所として自動車強制執行規則第十六条第二項の規定に基いてなしたものであることが明かである。ところで、自動車強制執行規則第十六条第一項は、自動車に対する仮差押の執行については、民事訴訟法中不動産に対する仮差押の執行に関する規定(但し、第七百五十二条を除く)を準用する旨規定しているので、自動車に対する仮差押の執行は、民事訴訟法第七百五十一条、第七百四十九条第二項第三項等の規定によるほか、同法第七百四十八条の準用により不動産に対する強制執行の手続に準じて行はれるのである。従つて自動車の監守保存処分に対する不服の申立については、民事訴訟法第五百四十四条第一項及び第五百五十八条の各規定が準用されるものと解するのを相当とする。元来自動車の監守保存処分は、自動車の特性である動産的形質に鑑み、執行の実効性を確保する必要上、執行の附随的処分として認められた制度であるから、執行の方法に関する執行裁判所の処分であることが明かであつて、執行裁判所が利害関係人を審尋しないでなした執行処分に対して不服のあるものは、先ず民事訴訟法第五百四十四条第一項の規定によつて、執行裁判所に異議の申立をなし、これによつて執行裁判所に不服の点を更正する機会を得しめた後、利害関係人において異議の裁判に不服があれば、同法第五百五十八条の規定により初めて即時抗告をなすことが許されるものと解するのを相当とする。本件においては、執行裁判所たる原裁判所が本件自動車の監守保存処分をするに当つて、利害関係人を審尋していないことは記録上明かであるから、右の理由により本件自動車の監守保存処分に不服のある抗告人としては、先ず執行裁判所に異議の申立をなすべきであるのに、これをしないで直ちに当裁判所に申し立てた本件抗告は不適法であるといわなければならない。

よつて本件抗告は却下すべきものと認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 浜田潔夫 仁井田秀穂 伊藤顕信)

(別紙)

抗告理由書

一、債権者中川庄二郎は東京地方裁判所昭和卅年(ヨ)第一九三一号自動車仮差押命令申請事件に基き債務者(抗告人)所有の本件自動車が隠匿等のおそれありとしてその監守保存命令の申請をなし同年四月七日同庁同年(ヲ)第五九五号事件による監守保存命令を得て東京地方裁判所執行吏福田徳蔵をして監守保存をなさしめた。

二、然しながら右監守保存は次の理由により著しく不当である。

(イ) 本件自動車が執行吏保管となつたため債務者会社の経営に致命的影響を来した特別事情がある。

本件自動車は債務者(抗告人)会社において去る三月十四日資金窮乏の折柄辛うじて代金日賦払の条件で購入した新車で全可動車十五輛(全部古車)のうち唯一の新鋭主力車であつたが本件監守命令により営業不能となつたことから前記買受代金の日払弁済が不能となり為に売主から他の二輛の自動車と共に売買契約を解除され該二輛は引揚げられ、これを契機として債務者会社内部の特別事情(後述)から従業員組合が怠業に入るに至り遂に会社はその機能を失ふ危険を生じて来た。

(ロ) 本件自動車はこれが監守を要する何等の必要性も緊急性もない。

債務者会社は別件東京地方裁判所昭和卅年(ワ)第九九四号取締役会並に株主総会議決議不存在確認事件及同年(ヨ)第四二一号職務執行停止代行者選任仮処分申請事件に基き代行取締役が選任され鋭意監理運営中のもので債権者が主張するような車輛を他に隠匿したり等をなすおそれは毫もない。

のみならず債務者会社は現在約三千万円の債務超過の状態にある一方、債権者の債権は廿六万余円に過ぎず而も本件車輛は既に本車輛自体の売掛代金債権等のため車輛の現在価格を超過する債権額九十五万円について抵当権が設定されて居るもので債権者がその債権保全手段としてこの仮差押をしても結局債権の満足を得ることは殆んど不可能でありまして当該自動車の監守保存を求める何等の実益もない。

(ハ) 本件自動車の監守保存はこれによつて被る債務者の犠牲が過大である。

本件車輛は平均一日八、九千円の収入を上げていたが本件監守命令によりその収入が絶えたのみならずその波及した影響は債務者にとり極めて深刻であること前述のとおりである。然るに本件によつて保全される債権額は前記のとおりであるのみならず本件監守にかかる自動車は現在露天に雨ざらしとなつて居りその自然損耗を増大しつつある。

三、本件自動車の監守保存命令に関する債権者の目的は真に債権保存の目的にあらずして前記別件訴訟に関連する別の目的があると解せられる充分の疑が存する。

以上のとおりにつき古監守保存命令は失当であると思料しその取消を求めるため本抗告に及ぶ次第であります。

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